原田マハ
原田マハさんは、2003年にカルチャーライターとして執筆活動を開始し、2005年には共著で『ソウルジョブ』上梓。
そして同年、『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞、特典として映画化されました。
2012年に発表したアートミステリ『楽園のカンヴァス』は第25回山本周五郎賞、第5回R‐40本屋さん大賞、TBS系「王様のブランチ」BOOKアワードを受賞するなど話題を呼び、ベストセラーに。
ペンネームはフランシスコ・ゴヤの「着衣のマハ」「裸のマハ」に由来しています。
暗幕のゲルニカをレビュー
『暗幕のゲルニカ』原田 マハ
戦争、テロを反対だと訴える声は世界に溢れかえっているけれど、いまだにその声は祈りはどこにも届かない。
戦争というとてつもなく凄惨な悲劇を起こすのも人間で、それによって血を涙を流すのも同じ人間で。
どうやってもその負の連鎖は断ち切ることはできないのだろうか、私たちは、過去の痛みから何を受け取り未来へと繋いでいくべきなのかを考えさせるような作品であると思う。
舞台は2003年のニューヨークと、大戦前夜の故郷を戦禍に呑まれた画家のアトリエ。実際に起きてしまった悲劇をモデルに、描かれたこの物語が持つメッセージはピカソの「ゲルニカ」にも勝るとも劣らないといえるだろう。
どうして人々は戦争をやめられないのか、その答えをここに求めるのは場違いだ。だが、そのために私たちがするべきことはたしかにここにあるとそう思う。
もしも当然帰ってくると思ってた人がかえってこなかったらどうしよう。
いつもどうりの朝が、日常がおくれなくなったらどうしよう。
考えさせられることはたくさんある。
2003年のあの悲劇を乗り越え、痛みに耐えながらも懸命に戦っていく瑤子の心はあまり、言葉で語られない。
だけど、彼女の熱意が意思が、がんばれ瑤子!と私に思わせれば思わせるほどに、心の奥のほうがぎゅっと鷲掴みにされて、目頭がじんと熱くなってきた。もしも瑤子と同じような状況になってしまったとき、私は彼女のような行動にでれるだろうか、と考えたらぞっとした。
だけど、きっとそれがやるべきことでだれかが背負わなければいけない使命なんだとも思った。
私は、ピカソのゲルニカの本物は見たことがない。
中学校で使用していた美術の教科書に載っていた、ちいさなちいさなゲルニカしかみたことはない。
だけれども、この絵が発する強い何かは確実に受け取ったようにも思う。
なんとなく開いて見つけた絵がこんなにも強いものを持っているということに恐怖すら感じた。
著者の原田マハさんは、作家である前に、キュレーターでもある。
洗練された言葉で紡がれた文章で描かれるピカソの3.49m×7.76mの超大作は鮮明に脳裏に浮かび、大地を赤く染めたであろう飛行機の轟音、すべてを焼き払った炎の熱さ、響き渡る泣き声やうめき声、溢れかえる絶望や怒りや苦しみが、ただ文字を読んでいるだけのはずなのにたしかに襲い掛かってくるのだ。
ゲルニカを描いたピカソの本当に真意はきっとピカソしか知らない。
だけど、きっと間違ってはいないと思う。
モデルとされた、事件。
国連本部に飾られてあったゲルニカのタペストリーに何者かが暗幕をかけてしまったという事件。
私はこの本を読むまでそれを知ることはなかった。
当時8歳の私に理解しろ、考えろというほうが難しいかもしれない。
だけど、こうしていま、物語として、新たに紡ぎなおされきっと誰もが願った結末を迎えたこの物語を通してしることができてよかったと心から思う。
あれ、正義っていったい何なんだろう。
撃つべき人、国なんて本当にあるのかな。
正義を掲げて銃を持って誰かを撃ったとき、撃たれた人にとってその正義は悪でしかないということを、私たちは知らなくてはならない。
ちゃんと目を開いて、その現実をしらないといけないんだ。
世界は前に進むことをやめないけれど、その進む方向を決めるのは舵をきるのはほかでもない今をいきる私たちなのだから、けっして傍観者などではあってはいけない。
戦争をはじめとする大きく凄惨な事件を知るのは、決まってテレビという小さな画面の中であったり、文章の中だ。
百聞は一見に如かずともいうから、ただそうして聞くだけの私たちはそこにあった痛みを涙を本当の意味で知ることは無い。
だけど、そのあとにみんなが必死に作ってきた平和をけっして揺るぎないものにするのも、痛みのない世界に舵をきる役割を果たすべきなのは何も知らない私たちの役目なのかもしれない。
先の時代の痛みを、繰り返し、もっと深い傷にするのではなく、紡がれたメッセージを確かに受け取り、それを確固たる意志に形を変えて新たな段階へと進んでいかなくてはならないのだと思う。
テロの屈しない勇気も、痛みのない平和な世界へと進む一歩もこの反戦のシンボルである「ゲルニカ」とそのメッセージを届けてくれるこの物語から学ぶこと、受け取ることができるのではないだろうか、と思う。
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